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認知症の幻覚には過去の生活歴が現れる。戦争時代の嫌な思い出も

 

 特別養護老人ホームで、夜勤帯の勤務をしていたときの話です。
新しく入居することになったAさん(女性・85歳)は長年ご家族と同居されてきた方でした。

 Aさんは足腰が弱く、手を引いて一緒に歩くなどの介助がないとうまく歩行できません。ご家族の方が悩まれていたAさんの認知症の症状は、昼夜逆転と幻覚症状でした。深夜になると起き出し、寝ている家族を起こして朝まで自分が見たという幻覚の話を延々とするそうなのです。

 例えば、「子どもが部屋にたくさんいて眠れない」などです。共働きで仕事を持ちながら日常生活を送っていたご家族にはAさんの介護が負担になっていたのです。

 以上のような認知症の症状の進行に加え、介護者の体調不良により、特別養護老人ホームへの入居の申請が受理されました。

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特別養護老人ホームへの入居で情緒不安定に

 特別養護老人ホームへの入居という環境の変化のせいで、Aさんは入居当初、情緒不安定でした。孤独による不安を感じると大声で叫ぶ、夜でも大声で民謡を歌い出す、部屋から膝をついた状態で這って出てくる、夜間せん妄の症状がみられました。

 夜中には夕食後に眠剤を飲んでいるにもかかわらず起き出し、Aさんの部屋からひっきりなしにコールが鳴るようになりました。通常時の「トイレ介助のお願い」や「お水が飲みたい」という要望の時もありましたが、大半が自分が見た幻覚についての訴えでした。

「部屋に火がついている!大変だ!」
「子どもが大騒ぎしている。追い出してほしい」
など、Aさんの訴えは切実な内容で、恐怖におびえたような表情をしていました。

 認知症の幻覚にはその人の過去の生活の記憶が影響していることがあります。Aさんの場合は、戦争体験をされていた方だったので、当時の思い出が一人になると幻覚として見えてくるようでした。部屋に火がついているのも戦争の体験からくるものだと思われます。

幻覚に対する対応

 Aさんの場合は、皆といるときよりも部屋で一人でいる時に特に「恐い幻覚」が見えるようでした。そのため、Aさんを職員が休憩する場所に誘導し、ほうじ茶とお菓子を出してAさんが眠くなるまで一緒に過ごすことにしました。

 その際もAさんには幻覚が見えるようでしたが、恐い幻覚ではなく、「ほーらほーら、頭の上に光がいっぱいあるよ~!」と自分の頭上を見て、手をひらひらさせていました。もちろん、部屋に一人でいるときのような怯え(おびえた表情)はみられませんでした。

 元々、人とお話しするのが大好きな方だったので、夜勤帯の職員や昼夜逆転気味の他の入居者の方と会話してもらいました。また、何もしないでいると幻覚症状が強くなる傾向があったので、折り紙をして過ごしてもらうこともありました。家にいるときには新聞のチラシをゴミ箱状に折っていたことを家族からお聞きしたので、小さなゴミ箱も折っていただきました。

 このような時を過ごし終わると、「ありがとね。寝てくるね」と、一人で部屋に戻ろうとする様子がみられました(のちにAさんは施設でリハビリを受け、入所以前よりはつかまり歩きが上手になりました)。

 幻覚症状の程度にもよりますが、Aさんの場合は、お話を聞くこと、一人にしないこと、他の作業をしてもらって気を紛らわせることが一時的な改善につながりました。

[参考記事]
「幻覚で悪魔が見えるレビー小体型認知症の女性への対応」

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