Sさん(62才女性)は、30代で躁うつ病を発症し、50代で脳梗塞を患い、現在は脳血管型認知症となりました。左半身麻痺のあり、歩行は困難で、車椅子を使用しています。
こういう状態でSさんは、デイサービスの利用を開始しました。躁うつ病ということと、他の利用者さんとは年齢が離れているということもあり、Sさんは、なかなか他の利用者さんとのコミュニケーションが取れず、デイサービスに馴染めないでいました。
デイサービスがSさんにとって、過ごしやすい場所になってほしい、と職員は対応策を考えました。
妄想と暴力
躁状態(高揚感)のときには、職員や、周りの利用者さんと興奮気味にお話されます。うつ状態のときには、誰から話しかけられても顔をテーブルに伏せています。また、躁状態、うつ状態関係なく、妄想が見られ、「あの人が私の悪口を言っている!」「あの人が私のお財布からお金を盗んだ!」などと、実際には起こっていない出来事を訴えます。そのため、「Sさんとは関わりたくない」と言う利用者さんも…。
また、介助を拒否することが多く、とくにトイレ介助の際は、前からSさんを支える職員に対して、殴ったり、髪の毛を引っ張ったりと、暴力的になります。
妄想の原因と対応策
よく見てみると、妄想の訴えは、嫌なことがあり、興奮気味になっている場合に多いことが分かりました。例えば、他の利用者さんから、「Sさん、若いのにこんな体になってかわいそうねぇ…」などと声をかけられたり、周りの利用者さんが、両手で行う機能訓練を行なっているのを見る時です。言われたくないことを言われた後や、自分に出来ないことを周りの利用者さんがしているのを見た後に、妄想の訴えが多く聞かれました。
そこでSさんの嫌な思いを減らすことが重要だと考えました。他の利用者さんに、「かわいそう」や「こんな体になっちゃって…」などと声をかけられることに関しては、職員が間に入ることにしました。他の利用者さんがそのような発言をしそうになったら、職員が話を変えたり、散歩に誘い、他の利用者さんとSさんをさりげなく離しました。
また、機能訓練は、他の利用者さんから離れた場所で、個別で行うことにしました。麻痺のない利用者さんたちと一緒に機能訓練をすることをストレスに感じているようだったからです。すると今度は、「私はみんなと同じことができないから、別の場所に連れてこられたのね」と、また傷つけてしまう結果になってしまいました。
そこで次は、Sさんが機能訓練を行う場所を、写真やお花をたくさん飾って、明るく楽しい雰囲気にしました。そして、機能訓練を行う職員が、楽しい会話をしながら機能訓練を行うようにすると、それまで機能訓練の時間はいつも暗い表情だったSさんから、笑顔がたくさん見られるようになりました。
トイレ介助の時の暴力の原因と対応策
また、トイレ介助を拒否することに関しては、職員の言葉掛けが大きな問題でした。Sさんは62才。自分とあまり年齢が変わらない職員から、「おむつ濡れてますよ。」などと言われたら傷つくのは当然です。
当たり前のことですが、これまで以上に、Sさんの気持ちを考えた言葉掛けを意識し、Sさんが好きな歌手の話やお孫さんの話など、トイレ介助とは全く別の楽しい会話をしながら、さりげなく介助をするようにしました。すると、トイレの中での暴力的な行動は、ほとんど見られなくなりました。
まとめ
これまでの対応は、Sさんへの配慮に欠けているものでした。何気なく発した言葉一つで、妄想や暴力を、増やしたり減らしたりすることが分かりました。年齢や体の状態が違う方と共に過ごしているSさんにとって、「言葉」や「過ごしやすい環境作り」はとても重要なことだと感じました。
[参考記事]
「認知症による物盗られ妄想への対応はどうすればいいのか」
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