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認知症の人に対する食事管理の難しさ。偏食があるなど

 

 この記事では私が訪問介護時に経験した食事管理の難しさに関して書いていきます。同じものしか食べないという偏食があり、どんどん痩せていってしまいました。

………..

 トキエさん(仮名)77歳は、認知症を患って3年。もうご主人が誰なのか、ここがどこかも分かりません。

 トキエさんの訪問介護は週に2日、1日5時間の長丁場です。まず朝、ベッドから出たくないトキエさんをお風呂に入れるのが一苦労です。ここだけは、ご主人に協力してもらいます。私は、風呂場で準備、わざとお水の音を立てて「トキエさん、お風呂のお湯が出ています。行ってみましょう」と誘います。トキエさんは節約家だったと聞いていましたので、「もったいない」と反射的に動いてもらうのが狙いです。

 脱衣所では、足の裏が冷たい床に触ると、回れ右してしまうのでトキエさんのためのタオル・ロードができています。普通のタオルだと足が引っかかる危険性があるので、裏に滑り止めのついた、生地の硬めなものを数枚用意してもらいました。

 そして脱衣は「あれ?トキエさん、背中に何かデキモノができていますか?調べましょう」と言って手早く脱がせるのが、一番効果がありました。元々キレイ好きだったトキエさんですが、髪の毛を洗うのが次の山場です。お湯が頭皮に掛かる度に「ひー」と声を出し、それが風呂場にエコーしてさらにトキエさんを怯えさせてしまいます。

 風呂場のエコーは本当に苦手なようで、ご主人の低い声でもしようものなら、そのままお風呂場から脱走してしまうほどです。ですから、お風呂場では、私はずっと小声でゆっくり喋りっぱなしか、ハミングをします。

 お風呂場での「ひー」が大ごとになりそうな時は、魔法の言葉「トキエさん、もうすぐバスが来ますから体をきれいにしましょう」と声を掛けると「あ、バスね」と言っておとなしくなります。トキエさんは自分の中では12歳の少女に戻っていて、この後、家(小さい頃に住んでいた実家)に帰るためのバスに乗ると思っているのです。

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食事管理の難しさ..偏食が酷い

 ある朝、いつものようにお風呂場に立ったトキエさんが、お風呂場のタイルの上で大量の排尿を始め、続けて排泄もしました。パジャマを脱いだり、夜間用パッドからの解放感や、お風呂の暖かさなどが手伝って起こり得ることですが、この時の排泄物に何か白い塊がたくさん入っていました。ピンポン玉を一回り小さくしたような、真っ白な塊です。排泄物は、その人の健康状態はもちろん、食生活の傾向も知らせてくれます。

 白いものの量があまりにも多かったので、お風呂が終わると、ご主人に心当たりを聞きました。正体はマシュマロでした。トキエさんは、マシュマロのやわらかな食感と甘さが大好きらしく、普段からたくさん食べていたようです。段々量が増えて、1日中マシュマロを食べていることもあったそうです。

 「案外消化しないんだね」とご主人。それからはマシュマロの量は減ったかと思いきやその逆で、マシュマロ以外の他の食品全てを受け付けなくなってしまいました。他のものは、食べられないのではなく、食べるのを拒否するのです。偏食を改善しようと無理に食べさせると虐待になってしまい、食事管理の難しさが露呈しました。

 元々、お孫さんが遊びに来てくれた時の為に買っておいたマシュマロが、トキエさんの主食になってしまいました。ご主人はトキエさんの栄養バランスの偏りよりも「機嫌よく何かを食べてくれるなら」と、たくさん用意してしまったようです。確かに、何も食事を摂らないよりもマシではありますが、マシュマロだけでは限界があることは目に見えていました。

 トキエさんは元々スリムでしたが、入浴時に目に見えて痩せてきていると分かったので、それからは、ケアマネジャーとご主人の同意で入浴時の体重測定もケアに加わりました。ご主人も何もしていなかったわけではなく、トキエさんの食事管理のためにセミナーやコミュニティーセンターの講習会に参加しましたが、やはり食事管理ができない状態が続き、トキエさんは老人ホームに入られました。私たちが訪問している時間というのは限られていて訪問していない間のご家族のご苦労は、相当なものでしょう。

 認知症の症状には偏食や食を拒絶する、またその逆の過食などがありますので、決して珍しいことではありません。今回は訪問介護時に偏食に気づいたから良かったものの、何もサービスを利用しないで過ごしていたら栄養失調になっていたかもしれません。訪問中、いかに認知症の方の状態、変化を察知できるかそしてご家族と、いかに連携して介護にあたれるかがとても重要だと思います。

[参考記事]
「認知症の人が食事を食べてくれない時の対応(実例)」

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