特別養護老人ホームに入所して3年になるEさん。年齢は86歳、女性、要介護4です。自宅に居る時に脳梗塞で倒れ、入院後特別養護老人ホームへ入所されました。
脳梗塞の後遺症で左上下肢に麻痺があり、車イスで生活されています。夜間はオムツを使用していますが、尿意はあります。定時のトイレ誘導が5回の他に、7~8回トイレの訴えがあります。ユニットには2つトイレがありますが、左麻痺があるEさんには、2つあるうちの1つは手すりの位置が使いずらいため、使用したがりませんでした。
また、トイレで立つのもやっとで、職員がほぼ全介助で便器へ移乗させています。さらに一度入ると長く、『まだ出ない』となかなかトイレから出ません。あまり長く座りすぎると、今度は立てなくなってしまいます。 Eさん自身、身体的にもトイレでの立位や長い時間の便器への座位は辛いと思います。
トイレ訴え時、トイレで排尿しているか確認しますが、すでにパットに失禁しているので、排尿はないことが多いです。毎回失禁しトイレでの排尿がないことからEさんの排泄介助についての見直しをすることになりました。
トイレ頻回の原因を考える
Eさんには日中はトイレで排泄したいという要望がありました。そのため、トイレ誘導かオムツかを検討する前に、なぜEさんはトイレで排尿したいのか、トイレの訴えが頻回なのはなぜかを考えることになりました。
Eさん自身、排尿や腎臓に関係する疾病はありません。コミュニケーションも取れるし、一日の日課も理解できています。何の理由もなくトイレを訴えているとは考えにくいです。また失禁したパットが気持ち悪くて、トイレの訴えが頻回なのかと思いましたが、トイレ誘導し終わって、10分ほどでトイレの訴えが聞かれるときもあります。その場合、パットに失禁はありません。
そこでまず、Eさんのトイレ訴え時の様子や時間帯を観察することにしました。すると、2つの事が分かりました。
1つ目は、Eさんのトイレの訴えは、職員が何か業務を始めようとしたり、他入居者のオムツ交換を始めようとする時間に重なる事が多いこと。2つ目は、Eさんはトイレの訴え時、他入居者Tさんの事を伺うような様子が見られたこと。
Tさんは、Eさんと同じ左麻痺がある男性入居者です。Tさんは車イスを自走し、トイレも自分でできますが、Eさんと同じく2つあるうちの1つのトイレしか使用しません。TさんはEさんのトイレに入る時間が長いことを知っているため、Eさんが動き出すと、Tさんはすかさず自分でトイレに行きます。
この2つの事から、Eさんは『トイレに行けなくなってしまうかもしれない』という状況を避けるためにトイレの訴えが頻回になることが分かりました。
職員が誰かの介助や何かの業務に入ればEさんはトイレに行けません。また、同じトイレを使用するTさんが先にトイレに入ってしまうと、Eさんはトイレに行けなくなってしまいます。
原因から対策を実施する
これらの原因から、2つの対策をたてました。
1つは、職員が他入居者や何かの業務に入る前に、Eさんにトイレに行くか声かけするようにしました。2つめは、EさんやTさんが使いずらくて使用しなかったトイレに、取付け式の手すりを設置しました。これにより、両方のトイレを使用することができるようなりました。
対策により、Eさんのトイレの訴えは7~8回から2~3回程度に減りました。トイレの訴えが頻回にある方は、『認知症だから仕方ない』『さっきも行きましたよ』等で片付けられがちです。しかし、本人の様子や取り巻く環境面をよく観察すことで、対策が見えてきます。
[参考記事]
「認知症高齢者の介護の実例「ゴミ箱をトイレと勘違い」」
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