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認知症の人に対する否定的な言葉が暴力に繋がってしまった事例

 

 この記事では認知症の人に対する否定的な言葉が暴力に繋がってしまった事例をお話します。

 テレビドラマなどではよく殴り合いのけんかをするシーンを目にします。私たちはそれは本当の事ではなく「作り物」を見ていると理解できますが、果たして認知症の方は素直に作り物だと受け入れることが出来るのでしょうか。

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Aさんについて

 グループホームに入所されているAさんは昔から正義感の強い方でした。警察官を長年勤めあげ、定年退職後も近くの小学校の通学路に毎朝立ち、交通ボランティアを行なっており、高齢になってもポイ捨てや信号無視をする若者に対して注意することもありました。地元の方もAさんが警察官であったことは知っていたために「町のお巡りさん」として人気者でした。

 正義感溢れるAさんも70歳を過ぎた頃から軽い物忘れなど認知症の初期症状が見られるようになり、日曜日を平日と勘違いし交通ボランティアに行ったりすることもあったそうです。

 そんな日が続いたある日、突然長年連れ添った奥さんが亡くなられました。亡くなられたことにショックを受けたAさんですが、生活が変わることは殆どなく、これまで通りに交通ボランティアに参加していました。

 しかし、上記のような認知症による勘違いを起こした時に、これまでは奥さんが迎えに来て、対応していましたが、一人になったことで何時間も立ち続け熱中症で倒れてしまったことがありました。

 幸いにも数日の入院で済んだのですが離れて暮らしていた娘さんは心配になりグループホームへの入居となったのです。

正義感が問題行動になる

 入居することで交通ボランティアには行けれなくなったことで、パニックなども懸念されましたが、会話はしっかりできる方だったためきちんと説明することで納得されました。

 ただ施設内でも正義感あふれる言動は出てしまい、他の利用者さんとのトラブルが起こってしまったのです。

 ある日、昔の青春ドラマが放送されていたので皆さんが昔を懐かしむように見ていた時の事です。

 突然Aさんが大声で「大変だ止めなくては殺されてしまう」と言い出したのです。周りの方は「何を言ってるの?ドラマだよ」と笑いながら答えたために「何故笑っていられる?お前たちもグルなんだな」と言い出し、男性利用者さんを押し倒してしまったのです。

 幸いにも押さえつけられた利用者さんに怪我はなかったのですが、Aさんに対する恐怖心が残ってしまったのです。

 それに対しAさんは良いことをしたと笑顔で過ごされていました。それを見た職員はAさんに対して「悪いことをした」と厳しく注意してしまいました。

 しかしAさんは自分は良いことをしたのになぜ注意されなくてはならないのか分からず、「さてはお前もグルなんだな。あの人を殺そうとしているんだな」と言い出し、職員に対する暴力行為に発展してしまったのです。

否定的な声掛けはダメ

 認知症の場合、注意された、怒られたというその時の感情だけが残ってしまうため否定的な声掛けはいけません。

 確かに悪いことは悪いのだから注意するのは当たり前のように思えてしまいますが、認知症の場合は別です。今回、介護のプロであるはずの職員の間違った対応によって、起こってしまった暴力ですので、一概にAさんだけを責めることはできません。

 否定的な声掛けでいい方向に進んだというケースは殆ど聞いたことがありません。

見せない配慮も必要

 職員は何か起こる度に対応するのは当たり前の事です。ただ何度も同じことを繰り返してしまうことは実力不足以外の何物でもありません。何かが起こった時には「起こらせないための対策」を立て、二度と起こらないようにしなくてはいけないのです。

 Aさんに対しては

〇みんなで見るテレビの内容も毎日の新聞も、暴力的な描写のあるものは省く。

〇皆がテレビを見ている間、Aさんと散歩に出かけたり、お手伝いをしてもらう。

〇激しい内容のテレビを見たい人は自室で見てもらう。

 これらの配慮をすることでAさんが安心感を得ることが出来たのです。

 全てを防ぎきることは難しかったのですが正義感自体は悪いことではなく、散歩に行っている時にごみ拾いをしたり、倒れている自転車の整理をしたりと良いことを何度もしてくれました。

 否定することは簡単な事ですがその否定により介助者に対して疑惑や不信感を覚えてしまう事も珍しくありません。本人の特性だと捉え、プラスに繋げていくことが大切なのです。

[参考記事]
「認知症による暴力行為への対応。退院してから別人のように変化」

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