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認知症の幻視に対する対応の成功例と失敗例。「小人がたくさんいる」

 

 認知症の人すべてに出現しないものの、認知症の人の多くに何らかの周辺症状が出現します。今回ご紹介する周辺症状は「幻視」です。介護士としての私の体験談を交えて、あるご利用者様の「幻視」の内容と、対応した方法についてご紹介します。

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「小人(こびと)」に連れていかれる恐怖?

 介護施設に入所していたO様(男性・80代半ば・要介護3・認知症)は、日常生活動作や身体機能は能力が保たれていましたが、認知症が進行中という状況にありました。認知症は進行中であるものの、もともとの性格が穏やかだったためか、介護士に対して不穏な態度を取るようことは基本的にはありませんでした。

 そんなO様が、ある日、テーブルの下を指差しながらこんなことを介護士である私に訴えました。

「あの下(テーブルの下)が恐い、なんとかしてくれないか・・・」

 私は、O様が一体何を言っているのか理解できませんでした(O様に関する基本情報として「認知症」ということはわかっていたので、何かを訴えたいのかな・・・とは察したのですが、その時はO様が何を恐がっているのかが想像できませんでした)。

 しかしO様はしきりに「あの下、あの下・・・」とテーブルの下を指差し、2~3分後に次のようなことを言われました。

「小人(こびと)がたくさんいて、私(O様)のことをジッと見ている。連れていかれそうで恐い・・・」

 実際には小人なんていません。でもO様には見えている、まさしく「幻視」だったのです。

対応に失敗

 私は「これは幻視だ・・・」と思い、O様に対して「小人なんていませんから気にしないでください」とO様を否定するような言葉かけをしてしまいました。

 そうしたら、普段は穏やかなO様の表情が険しくなり、居室から出ていこうとされるのです。O様は私に「アンタには、あの小人の恐さがわかっていないんだ!縄でしばられてあの世まで連れていかれてしまう!恐くてここに居れない!!」と言いながら、意地でも居室から外に出ようとされるのです。私は正直「言葉かけ(対応)を失敗してしまった」と感じました。

 この出来事、何だかおとぎ話のような内容なのですが、O様にしてみればとにかく恐怖を感じている様子でした。

対応の再検討

 私は、最初はO様を外に出ないように引き止めようとしましたが、逆効果でO様は意地でも外へ出ようとされました。

 私は、考え方を変え、一旦O様と居室の外へ出て、少し散歩をして時間をおいてから、O様と一緒に居室に戻ってきました。戻ってくるとO様は先程と同様「あの下(テーブルの下)に小人が・・・」とおっしゃいます。

 私は「さっきと同じ対応では、O様が感じている恐怖感を取り除くことはできない」と考え、「私が小人を追い出してみましょうか?」とO様に言葉かけをした後、ほうきでテーブルの下を掃くフリをして、居住空間の外へ小人を掃き出すようなイメージで対応してみました(実際に小人がいるわけではないので、掃き出すフリをして、私が掃き出す様子をO様に見てもらったのです)。

 するとO様は「良かったー、小人がいなくなった。これで安心して寝れる」とおっしゃったのです。私は心の中で「今度は対応に成功した」と感じました。

「否定しない」という基本的な対応

 今回のO様の「幻視」に直面して、私は改めて「認知症の人の発言や行動が、事実と異なっていても否定しない」という基本的な対応の大切さを実感しました。

 とはいっても、介護現場でリアルタイムでご利用者様への対応をしなければいけない場面で、上手な対応ができるようになるまでには、介護士としての実践経験を多く積むことが必要であるとも感じました。

認知症の周辺症状「幻視」のまとめ

 今回は、認知症の周辺症状「幻視」への対応として、私の失敗体験と成功体験を交えてご紹介しました。認知症に対する基本姿勢は「その人のことを否定しない」ということを改めて感じた実体験でした。

 介護士として、認知症に対する基本的な勉強はしていても、実際にそのような場面に遭遇すると、必ずしも上手く対応できるとは限らないと思いますが、今回ご紹介した内容が、認知症の幻視に対する対応の参考になれば幸いです。

[参考記事]
「レビー小体型認知症の症状である幻覚とパーキンソン症状」

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